ISBN:4003261356 文庫 江川 卓 岩波書店 1999/11 ¥798

記念すべき(しねーけど)最初は、かの有名なドストエフスキーの「罪と罰」。
罪を犯してしまった青年の苦悩と、その周りの人間を描いた超長編だ。
僕はロシア文学を読むのはこれが初めてだったのだけど、正直参った。
何にって、登場人物の名前の長さにだ。
ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフとかあほかっつーの。覚えてらんねぇよそんなん。巻頭の登場人物紹介は見るだけで笑えるので、一見の価値あり。
そして本文も長い。約400ページ×3冊。しかも、登場人物がうだうだうだうだ考えてばかりなので余計に長く感じる。文章が読みやすいので僕にとっては苦痛ではなかったが、普段あまり本を読まない人には少々厳しいかもしれない。

でも。この作品には、それを乗り越えてでも読む価値がある。
ひたすら続く心理描写の中、時折もう本当に素晴らしい文が出てくるのことがあるのだ。冗談抜きで魂が震えた。これはやばい。名作と呼ばれるだけのことはある。
特に下巻は凄い。感動。ネタバレになるので後述にするが、エピローグでは闇の中に一条の光が差し込んでくるというイメージそのものが頭に浮かんだ。

物語全編を通して感じたのは、ドストエフスキーの「優しさ」だ。
飲んだくれのどうしようも無い糞野郎。自分でもう飲んでは駄目だと分かっていて、それでも飲んでしまう。家では妻子が食べるものも着るものも無く、娘が身を売って何とか暮らしている。それでも飲んでしまう。
つまるところ、そういう屑(敢えてこう言う)の気持ちというのは、分からない人には絶対に理解できないのだろうと僕は思う。どんな状況でも諦めず、明日のための努力をすることが出来る。自分のことが大好き。そういう「強い」「頑張れる」人には絶対に分からない。
そういう人は飲んだくれを罵って、もっと頑張れと言うのだろう。それは正しい。とても正しい。でも、弱い人間にはそれが出来ないのだ。もう自分でもどうしよーもないのだ。頑張れって言われても無理なんだ。
僕には、その気持ちがよく分かる。
そして、この作品はそんな屑への優しさに満ち溢れている。
それはキリスト教的な考えと少し似ていて、だからこの作品は「キリスト教色が強い」とか言われているのだと思う(ちなみに、キリスト教の教義をある程度理解している方が分かり易いのは確かだけれど、別に必須では無いと僕は思う。何とかなるんじゃない?)。
世界中の屑に幸あれ。

最後に、僕の一番心打たれた一節を抜き出して終わろうと思う。
以下ネタバレにつき注意。

ふたりは待ち、そして耐えようと決心した。まだ七年の歳月が残っていた。そのときまでは、どれほどの耐えがたい苦痛が、どれほどのこよない幸福があることか! だが、彼はよみがえった。彼はそのことを知っていた。新しいものとなった自分の全存在で、完全にそのことを感じていた。そして彼女は、いや、彼女は、ただ彼の生だけを生きていたのだ!


コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索