ISBN:4840237158 文庫 紅玉 いづき メディアワークス 2007/02 ¥557

――あたしのこと、食べてくれませんかぁ…………!?

はい、というわけで最早どなたも覚えておられねーと思うけど細二です。お久しぶりという言葉が風化してしまいそうな位久しぶりだけど、気にしたら負けだと思う。
学校が終わってから一ヶ月くらい何してたかというと、まぁ積読を少しずつ崩したり積みゲーを少しずつ崩したり。あと、学校が終わってまでも何故かプレゼンの準備をしていたり、何故か友人の書いた小説についてアドバイスしたり(何様?)。ちなみに友人の作品は、オブラートに言っても劣悪な出来だった。
あとは、久々に再会した友人が就職したりお母さんになってたりを見て、マジで焦ったりビビッたり。そんな生活。

さて。
何気なくこのBLOGを読み返していたところ、ラノベのレビューが一件も無いことに初めて気づいて驚愕してしまったので、今日はラノベの感想でも。
今更感が漂いすぎて鼻が曲がりそうだけど、電撃小説大賞の大賞を受賞した「ミミズクと夜の王」と、同じく金賞受賞の「扉の外」を。他の作品は買っていない&ラノベコミュニティのレビューもチェックしていないのでわからないけど、去年の銀賞受賞作品「狼と香辛料」のような、めっさ話題になっている作品は無さそう。

まずは大賞の「ミミズクと夜の王」。
周囲の村人に迫害されていた少女ミミズクが、夜の王や魔物に会って云々というファンタジー。
読み終えた第一印象は、「夏休みの課題図書」(Amazonのレビューでも、同じようなことを書いておられる方がいらっしゃったけど)。なんつーか、確かに綺麗で、完成度も高いと思うんだけど、あんまり印象に残らない感じかな。読み応えがマイルドなんだろうか。ジャンルというか、雰囲気というか、方法論というか、まぁそんなようなものもラノベというよりは「童話」だと思う。ジャンクフードじゃなくて、普通に美味しいお粥みたいな。そんな感じ。こんなラノベらしくない作品に大賞を取らせるなんて、電撃の懐の深さを改めて思い知った。
まぁ、このパンチ不足はストーリーの展開上、仕方ないことじゃないかな。序盤は主人公の痛々しい言動とか、結構衝撃的なシーンも多いけど、中盤から終盤にかけては主人公が普通になってきてしまっているし。ストーリーも大体予想できてしまうしね。つーか、この作品にそもそもそういう衝撃を求めること自体が間違っているのだと思う。
読んでいて、男にはこれ書けないなー、と強く感じた。同じく女性作者の『キーリ』を読んでいる時にも感じるむず痒さがここにも。なんつーか、こう、やっぱり女性から見た男性像というか、そこに何とも言えない違和感がある。女性が男性向け作品を読んだときには、この違和感がもっと強くなって『嫌悪感』になるのかなぁ。まぁエロゲとかはアレだしね。
総じて、良い意味でも悪い意味でもラノベらしくない作品。帯では「泣いた」みたいなことが書かれているけど、これ泣くようなジャンルの作品じゃないだろ、と僕は思う。「童話」で泣くか(いや、「ないたあかおに」とか「ごんぎつね」とかは別として)? もっとしんみりとした良さじゃないかと。帯でコメント書いている人は全員女性だけど、これが男性と女性との間にある感性的隔絶なのかなぁ。
そんなわけで、僕的には微妙だった。女性には薦められるかも。女性の感想を聞いてみたい作品。

「扉の外」。目が覚めると見知らぬ部屋でクラスメイトと一緒だった。コンピュータが言うには私に従っていればオールオッケーらしいが、さてはて云々。そんな話。
まぁ、よくあるデスゲーム系の作品(これには「死」は出てこなくて、生命の保証はされているけど)で、主人公が中二病(中二病について:http://www.geocities.jp/sittodesuka/)。なんだか、クラスメイトを見下しまくっている。
デスゲームとしての出来はそこそこというか、正直ありきたり。読んでいてそこまでつまらなくもないけど、積極的に面白いとも言えないような、そんな出来じゃないかな。
で、全体的に描写が不足していて、展開に説得力が感じられない。悪い意味でサクサク進んでいってしまっているのが、一番の欠点だと思う。
主人公は典型的なイタいキャラの癖に何故かモテモテ(死語)。つーか、本当に何故こんなにも好意を持たれているのかが不思議で、まぁこれも描写不足が原因かなぁ。正直、主人公の人物像は不愉快だった。
ラストも何だかえぇー、な出来で、なんだかいきなり悪いキャラクターが改心して大団円、みたいなそんなノリ。しかも言っていることが当たり前過ぎて、いまさらそれかよ! それでみんな納得しちゃうのかよ! まさに「とってつけたような」という言葉がしっくりくる感じ。
とにかく全体的に説得力不足で、ストーリーに最後まで入りきれず終わってしまった。
正直、あまり出来がいいとは思えないのだけど。これで金賞?
個人的には、帯に書かれている竹宮ゆゆこのコメントの方が本編の何よりも面白かった。
というわけであまりオススメできません。

そんなわけで、2作品とも僕としては外れだったかな。
……脳が腐りかけているような状況で久しぶりに文章を書いたせいか、自分でも何だか微妙なレビューだけど、まぁこんなところで今日は終わり。またいつか。出来れば近いうちに。
ISBN:4103014717 単行本 米澤 穂信 新潮社 2006/08/30 ¥1,470

――いまさら、いまさら取り返しなどつくものか!

恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。
――はずだった。
ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。
どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4103014717/sr=1-1/qid=1158676789/ref=sr_1_1/250-7890379-3404269?ie=UTF8&;;


「氷菓」「愚者のエンドロール」などの古典部シリーズで角川スニーカー文庫からデビュー、最近は一般文芸の仕事も引き受けているミステリ作家。米澤穂信(氏の公式サイトはこちら。『汎夢殿』http://www.pandreamium.net/index.html)。
この「ボトルネック」は最新刊なのだけど、ミステリじゃない作品ははじめてなのかな?

恋人の弔い中に兄の死を告げられ、もう帰ろうと崖から花を投げ込むと自身が転落。
気がつくと、そこは「自分が生まれなかった世界」であり、「生まれなかった姉が生まれた世界」だった。
小市民シリーズではかなりダークな青春を描いている米澤穂信だけど、今回はそれを上回る暗さだ。暗黒青春ぶっちぎり。
いつものことながら、今回も厭世的な高校生が主人公。それも「さよなら妖精」や小市民と比べて、かなりひどい。

懐かしくなんかない。爽やかでもない。
若さとは、かくも冷徹に痛ましい。
ただ美しく清々しい青春など、どこにもありはしない――。


というのが帯のキャッチだけど、すげー上手く内容を表していると思う。

タイトルの「ボトルネック」ってのは、そのまんま「瓶の首」で、つまり「道が狭くなり、流れが滞ってしまう場所」。
経済や情報技術分野では、全体の効率を低下させているごく一部分の事を指す。どんなに他の部分を改善しても、ボトルネックを発見し、除去しない限り効率は絶対に向上しない。
ボトルネックは排除しなければならない。

んー、どうも上手く書けないな。長い間レビューは書かずにいたせいか。つーかやっぱりネタバレ無しに書くには難しい。
まぁ、いつもと違ってミステリでもないし、爽快感を感じられるような小説でもないけど、質の高いものであることは確か。
「さよなら妖精」の暗めな米澤穂信が好きなら、買っても損は無いと思う。

以下はネタバレ感想。
信じていたただひとつの恋人との繋がりすら失ってしまい、自身がボトルネックであることを自覚してしまった主人公。
読んでいて、やっぱり「違う可能性」というものは見ちゃいけないものなんだな、と思う。
人生ってやつはまぁ、選択に次ぐ選択、ひたすら選択の連続で成り立っているわけで。僕たちは常に何かを選び、何かを切り捨てながら生きているわけだ。やっぱりああすりゃよかったー、とか頭抱えたりするけど、それでもそれが最善だった、と信じるしかない。そんなことでいちいち悩んでいたら、何も選べなくなってしまうからね。
でも、もし仮に「自分の代わりに誰かがいる世界」を体験してしまって、それが自分が居た世界よりも良いものだったとしたら、自身がボトルネックなのだと知ってしまったら、もう何も出来なくなる。レーゾンデートルを喪失してしまう。自分自身がまったく信じられなくなってしまう。
物語の最後、どちらの道を行くべきか決められない主人公は、つまりそういうことだったんじゃないかな、と。

僕自身も自分に自信が無くて、自分がボトルネックじゃないかとビクビクしている人種だ。だからこの話は、何というか、凄く痛かった。
ISBN:4106101416 新書 藤原 正彦 新潮社 2005/11 ¥714

「Air」おわんねー。つーかプレイする時間が無い。
色々とやるべき事とやりたい事が溜まっていて、少しでも時間が惜しい毎日なんだけど、しかし講義の関係で新書を1冊読まなければならなくなった。
正直かったるい。
というのも、最近新書がブームになっているようだけど、僕は基本的に新書は好きじゃないのだ。
「わかりやすさ」が売れている理由。でもそれって、情報量がそれだけ減ってるってことじゃないの?
本当に学びたいことがあるのならば、その分野の概説書くらいは読むべきだと思う。楽して学ぼうなんて馬鹿の考えることだ。
まぁ、知識を役立てるんじゃなくて、単なる娯楽として捉えるならいいのかもしれないけど。

もう一つ、新書ってどうよ? と思う理由がある。このブームだ。
勿論、流行に流されるなんて嫌だ、みたいな低レベルな話じゃない。
ブームになれば、出版側は沢山の本を出そうとする。そうすると、どこの誰とも知れない怪しげな経歴を持っているような奴が書くことになる。結果、本の質が低下する。
小説以外の本(ま、小説でもそうだけど)を選ぶ際、最初に考えるべきことは、誰がその本を書いているのか? ということだ。気をつけていないと、とんでもないぶっ飛んだ内容の本を買わされる可能性が高い。
そんなトンデモ本を信じてると、いつか赤っ恥かかされるぞー。

そしてこの「国家の品格」は見事に駄目駄目。つーかそもそも、数学者がこんな本を書いているという時点でみんな疑問に思わないのか?
ナショナリズムに関する本が売れている、ということで買ってみたのだけど……。これは正直無いよ。
こんなん買うなら、「のだめカンタービレ」の1巻買いたかったっつーの。

まず、全体として論理展開が下手。これは、本の中で論理を否定している作者なりの皮肉なんだろうか。
「俺めっちゃ正しいこと言ってるんじゃね?」的論調も読んでいて苛つくし。
内容についても、作者の思い込みと知識不足が目立つ。
親孝行を神道の精神の表れとか言っているけど、そりゃ儒教だよ。
惻隠の心(=かわいそうだと思う心。「仁」のこと)が武士道精神の表れ? それも儒教だよ。孟子だよ。

というか、そもそも僕は「武士道=日本の精神」という考えは疑問視していたりする。
武士なんてたかだか全体の10%程度に過ぎない階層の思想を、かつての日本人全体の思想であるかのように扱って良いのか?
そもそも武士道なんて平和な江戸時代になってから生まれたもので、政治的意図絡みまくりだし。
新渡戸稲造だって「武士道」で「でも武士道が速攻で捨てられたのって、結局伝統に根ざしてなかったからなんだよねー」とか言ってるんだぞ? 本当に「武士道」読んだのか?(ちなみに僕は軽く流し読んだだけなので、何か誤解していたらごめんなさい)

他にも、例えば民主主義などについてもかなり勉強不足のようで、うん、ちょっと知識がある人なら呆れてしまうんじゃないだろうか。
結論。これは結構やばいレベルの本だぞ。
こんなん読んで「武士道こそが日本の〜」とか言ってる人は、もう少し本を読んだ方が良い。

この本が売れている、ということは、案外ナショナリズムに関する拒絶感というのは薄れてきているのだろうか。
これをきっかけにして、「日本人としての在り方」というものが議論されるようになってくれればと思う。
それ以外、この本に期待することは無い。
つーか期待できない。

時間と金の無駄だったなぁ。
ISBN:4003261356 文庫 江川 卓 岩波書店 1999/11 ¥798

記念すべき(しねーけど)最初は、かの有名なドストエフスキーの「罪と罰」。
罪を犯してしまった青年の苦悩と、その周りの人間を描いた超長編だ。
僕はロシア文学を読むのはこれが初めてだったのだけど、正直参った。
何にって、登場人物の名前の長さにだ。
ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフとかあほかっつーの。覚えてらんねぇよそんなん。巻頭の登場人物紹介は見るだけで笑えるので、一見の価値あり。
そして本文も長い。約400ページ×3冊。しかも、登場人物がうだうだうだうだ考えてばかりなので余計に長く感じる。文章が読みやすいので僕にとっては苦痛ではなかったが、普段あまり本を読まない人には少々厳しいかもしれない。

でも。この作品には、それを乗り越えてでも読む価値がある。
ひたすら続く心理描写の中、時折もう本当に素晴らしい文が出てくるのことがあるのだ。冗談抜きで魂が震えた。これはやばい。名作と呼ばれるだけのことはある。
特に下巻は凄い。感動。ネタバレになるので後述にするが、エピローグでは闇の中に一条の光が差し込んでくるというイメージそのものが頭に浮かんだ。

物語全編を通して感じたのは、ドストエフスキーの「優しさ」だ。
飲んだくれのどうしようも無い糞野郎。自分でもう飲んでは駄目だと分かっていて、それでも飲んでしまう。家では妻子が食べるものも着るものも無く、娘が身を売って何とか暮らしている。それでも飲んでしまう。
つまるところ、そういう屑(敢えてこう言う)の気持ちというのは、分からない人には絶対に理解できないのだろうと僕は思う。どんな状況でも諦めず、明日のための努力をすることが出来る。自分のことが大好き。そういう「強い」「頑張れる」人には絶対に分からない。
そういう人は飲んだくれを罵って、もっと頑張れと言うのだろう。それは正しい。とても正しい。でも、弱い人間にはそれが出来ないのだ。もう自分でもどうしよーもないのだ。頑張れって言われても無理なんだ。
僕には、その気持ちがよく分かる。
そして、この作品はそんな屑への優しさに満ち溢れている。
それはキリスト教的な考えと少し似ていて、だからこの作品は「キリスト教色が強い」とか言われているのだと思う(ちなみに、キリスト教の教義をある程度理解している方が分かり易いのは確かだけれど、別に必須では無いと僕は思う。何とかなるんじゃない?)。
世界中の屑に幸あれ。

最後に、僕の一番心打たれた一節を抜き出して終わろうと思う。
以下ネタバレにつき注意。

ふたりは待ち、そして耐えようと決心した。まだ七年の歳月が残っていた。そのときまでは、どれほどの耐えがたい苦痛が、どれほどのこよない幸福があることか! だが、彼はよみがえった。彼はそのことを知っていた。新しいものとなった自分の全存在で、完全にそのことを感じていた。そして彼女は、いや、彼女は、ただ彼の生だけを生きていたのだ!