映画:『雲のむこう、約束の場所』感想
2006年7月1日 映画
DVD ビデオメーカー 2005/02/17 ¥4,935
――あの遠い日に
僕たちは、叶えられない約束をした――
ようやく、ようやく僕の近所のビデオ屋にこれが入った。
「雲の向こう、約束の場所」。「ほしのこえ」でその有り余る才能を見せ付けた新海誠監督の第2作目だ。
僕が「ほしのこえ」を観たのは3年ほど前なのだけど、もうね、あの映像美に痺れっぱなし。ラスト付近は鳥肌立てて震えていた。
だから、この「雲の向こう、約束の場所」も物凄く期待して観たのだけど、うん、荒削りというか、改善すべき点はまだまだあるけれど、やっぱり新海誠は本物だと思う。
「ほしのこえ」からの映像美は顕在。
どこまでも突きぬけていくような青空、白い雲。そこにそびえ立つ、高く、あまりに高い塔。朽ちたその姿を風に晒す廃駅。夕陽が差し込む放課後の教室。
……素晴らしい、としか言いようが無い。淡い色使いを鮮烈に魅せる光と影のコントラストは、まさにこの監督ならでは。背景でこれほど主張できる人ってのは、そう居ないんじゃないだろうか。
ただ、僕としては「ほしのこえ」ラスト付近、雪の降る街の風景にはちょっと劣るかな、と感じた。あれは正直、僕のツボに直撃してそのままぶち抜くような代物だったので。
ストーリーは「ほしのこえ」と同じく、「人と人の繋がり」を描いていて、まぁありがちと言えばありがちなもの。だけど、「ありきたり」ではなく、良質で「王道」な作品として仕上がっている。
ただ、これは「ほしのこえ」でも感じたことなのだけど、ちょっと中途半端なところがあるかな、と思う。
「ほしのこえ」では「自分の居場所の確立」ということもテーマに入っていて、ミカコが制服をずっと着用していたのも自己確立としての意味があったらしい(作中じゃ語られなかったけど。MF文庫Jのノベライズより)。その辺がどうも中途半端というか、消化不足な部分だった。
今回の作品では、平行世界などのSF要素がちょっと中途半端。セカイ系作品としていくのならあんな中途半端な説明はせず、もっと――そう、高橋しんの「最終兵器彼女」くらい説明を無くすべき。逆に、もっと一般の客層もとり込んでいくのなら、ちゃんとした説明をしていかなくちゃ。その辺がどうも消化不足と言うか、製作側のコンセプトが定まっていないように思う。
つーか、新海監督には一度、SF要素一切無しの直球ど真ん中の青春作品を作ってみて欲しい。いや、SF要素が叙情的な作品と絶対に合わない、というわけではない。新海監督のような、幻想的な雰囲気を持ち合わせたSFというのは海外では珍しくない(日本じゃ全然無いけど)。例えばレイ・ブラッドベリとかね。僕もブラッドベリは大好き、というか信者だし。
ただ、新海監督は多分SFが物凄く好きで、その思い入れが純粋な作品としての完成度を下げてしまっているんじゃないかな、と。
今作品の前半では、意図的に過剰なほど美化された青春の一コマが描かれている。その完成度を観ると、この人がただの何でも無い青春ものを作ったらどうなるんだろう、観てみたい、と思わせてくれるのだ。
いつかやってくれないかなぁ。
今回の作品では俳優を声優として起用していて、例えばかの「北の国から」で有名な吉岡秀隆が出演したりしている。のだけど、うん、いや確かに雰囲気はよく出てると思うんだけどね、ぶっちゃけ聞き取りにくい。下手、というか何というか。
スタジオジブリの宮崎監督といい、何故素直に声優を使ってくれないのか疑問に思う。
演出は中々に上手い。特に、音楽の使い方は「ほしのこえ」の時よりも確実に良くなっている。テーマ曲(?)のバイオリンの曲は雰囲気とも合っているし、物語上でも上手く使われているしで素晴らしいね。
ただ、ラストでボーカル曲が入るところは「ほしのこえ」と同じなのだけど、その部分の盛り上がりは微妙。そこは「ほしのこえ」の方が明らかに良かった。
ただまぁ、さっきの風景のところでも書いたけど、僕の中で「ほしのこえ」ラストシーンはあまりに鮮烈な印象を残しているので、その辺ちょっと主観が入り過ぎているかもしれない、というのは言っておく。
まぁ何にせよ、やはり素晴らしい作品。
セカイ系世界観だったり、ヒロインがフィクション的なキャラクター
だったりで、一般の人(ぶっちゃけると非オタク)にはちょっと受け入れがたいかもしれないけど、それでも是非一度は観て貰いたい。
それだけの価値はある。
今後どういう傾向の作品を新海誠が作っていくのか。それはまだ分からないけれど、取り敢えず楽しみにしていようと思う。
――あの遠い日に
僕たちは、叶えられない約束をした――
日本が南北に分断された、もうひとつの戦後の世界。米軍統治下の青森の少年・藤沢ヒロキと白川タクヤは、同級生の沢渡サユリに憧れていた。彼らの瞳が見つめる先は彼女と、津軽海峡を走る国境線の向こう側、ユニオン占領下の北海道に建設された謎の巨大な「塔」。いつか自分たちの力であの「塔」まで飛ぼうと、小型飛行機を組み立てる2人。ところが中学3年の夏、サユリは突然、東京に転校してしまう。うやむやのうちに飛行機作りも投げ出され、それぞれ別の道を歩き始めるのだが…。
2002年『ほしのこえ』で映像界に鮮烈なデビューを飾った新海誠監督の、初長編映像作品
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000793FBK/ref=pd_bxgy_text_1/250-9574639-8933031
ようやく、ようやく僕の近所のビデオ屋にこれが入った。
「雲の向こう、約束の場所」。「ほしのこえ」でその有り余る才能を見せ付けた新海誠監督の第2作目だ。
僕が「ほしのこえ」を観たのは3年ほど前なのだけど、もうね、あの映像美に痺れっぱなし。ラスト付近は鳥肌立てて震えていた。
だから、この「雲の向こう、約束の場所」も物凄く期待して観たのだけど、うん、荒削りというか、改善すべき点はまだまだあるけれど、やっぱり新海誠は本物だと思う。
「ほしのこえ」からの映像美は顕在。
どこまでも突きぬけていくような青空、白い雲。そこにそびえ立つ、高く、あまりに高い塔。朽ちたその姿を風に晒す廃駅。夕陽が差し込む放課後の教室。
……素晴らしい、としか言いようが無い。淡い色使いを鮮烈に魅せる光と影のコントラストは、まさにこの監督ならでは。背景でこれほど主張できる人ってのは、そう居ないんじゃないだろうか。
ただ、僕としては「ほしのこえ」ラスト付近、雪の降る街の風景にはちょっと劣るかな、と感じた。あれは正直、僕のツボに直撃してそのままぶち抜くような代物だったので。
ストーリーは「ほしのこえ」と同じく、「人と人の繋がり」を描いていて、まぁありがちと言えばありがちなもの。だけど、「ありきたり」ではなく、良質で「王道」な作品として仕上がっている。
ただ、これは「ほしのこえ」でも感じたことなのだけど、ちょっと中途半端なところがあるかな、と思う。
「ほしのこえ」では「自分の居場所の確立」ということもテーマに入っていて、ミカコが制服をずっと着用していたのも自己確立としての意味があったらしい(作中じゃ語られなかったけど。MF文庫Jのノベライズより)。その辺がどうも中途半端というか、消化不足な部分だった。
今回の作品では、平行世界などのSF要素がちょっと中途半端。セカイ系作品としていくのならあんな中途半端な説明はせず、もっと――そう、高橋しんの「最終兵器彼女」くらい説明を無くすべき。逆に、もっと一般の客層もとり込んでいくのなら、ちゃんとした説明をしていかなくちゃ。その辺がどうも消化不足と言うか、製作側のコンセプトが定まっていないように思う。
つーか、新海監督には一度、SF要素一切無しの直球ど真ん中の青春作品を作ってみて欲しい。いや、SF要素が叙情的な作品と絶対に合わない、というわけではない。新海監督のような、幻想的な雰囲気を持ち合わせたSFというのは海外では珍しくない(日本じゃ全然無いけど)。例えばレイ・ブラッドベリとかね。僕もブラッドベリは大好き、というか信者だし。
ただ、新海監督は多分SFが物凄く好きで、その思い入れが純粋な作品としての完成度を下げてしまっているんじゃないかな、と。
今作品の前半では、意図的に過剰なほど美化された青春の一コマが描かれている。その完成度を観ると、この人がただの何でも無い青春ものを作ったらどうなるんだろう、観てみたい、と思わせてくれるのだ。
いつかやってくれないかなぁ。
今回の作品では俳優を声優として起用していて、例えばかの「北の国から」で有名な吉岡秀隆が出演したりしている。のだけど、うん、いや確かに雰囲気はよく出てると思うんだけどね、ぶっちゃけ聞き取りにくい。下手、というか何というか。
スタジオジブリの宮崎監督といい、何故素直に声優を使ってくれないのか疑問に思う。
演出は中々に上手い。特に、音楽の使い方は「ほしのこえ」の時よりも確実に良くなっている。テーマ曲(?)のバイオリンの曲は雰囲気とも合っているし、物語上でも上手く使われているしで素晴らしいね。
ただ、ラストでボーカル曲が入るところは「ほしのこえ」と同じなのだけど、その部分の盛り上がりは微妙。そこは「ほしのこえ」の方が明らかに良かった。
ただまぁ、さっきの風景のところでも書いたけど、僕の中で「ほしのこえ」ラストシーンはあまりに鮮烈な印象を残しているので、その辺ちょっと主観が入り過ぎているかもしれない、というのは言っておく。
まぁ何にせよ、やはり素晴らしい作品。
セカイ系世界観だったり、ヒロインがフィクション的なキャラクター
だったりで、一般の人(ぶっちゃけると非オタク)にはちょっと受け入れがたいかもしれないけど、それでも是非一度は観て貰いたい。
それだけの価値はある。
今後どういう傾向の作品を新海誠が作っていくのか。それはまだ分からないけれど、取り敢えず楽しみにしていようと思う。
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